栄光ある孤立

インディー大学生は語る

日本未公開映画『The Disaster Artist』が超面白かった話

君の名前で僕を呼んで』が数々の賞にノミネートしたことや主演俳優の麗しさから公開前から話題を呼び、一大ブームとなっていますが、どこかこの現象に引き気味なわたしがいます。というのも、この映画を日本のみなさんより一足はやく、イギリス人がオーストラリアに定住した日を祝う《オーストラリアンデー》というアボリジニや左派の方から大変評判の悪い物議を醸す祝日(1月26日)に友達と見に行ったのですが、これがどうも私にはヒットしなかった。同性愛をテーマとした映画も数多く見てきましたが、これがとりわけ秀でてるとは思えず、かといってそれをうまく言語化することもできず、この作品が言及されているのを見るたびに悶々としてしまうのです。

 

かといって海外の映画館で映画をみるという体験自体は大変貴重な経験となりました。英語に自信がなくて楽しめるか不安でしたが、逆にセリフが完全に理解できないからこそ俳優の演技やセット、小道具、音楽、衣装がもたらす効果について再認識したからです。総合芸術としての映画の本質をはここにあります。セリフやストーリーを追うなら本を読めばいい。これは大学で映画批評ゼミの先生たちが口うるさく言っている「画面を見ろ」ということを知らず識らずのうちに実践していたのかもしれません。昔のカイエドゥシネマにゴダールが寄稿した溝口論には「フランス人なので日本語を理解できないが、彼の演出は完璧で言葉を必要としない。これこそがミゾグチを偉大な監督たらしめるものだ」のようなことが書いてありましたが、この言葉の意味を深く理解できた作品があります。

 

オーストラリアにきて初めて劇場でみた『The disaster artist』です。人生初、海外の映画館で観た作品として、コメディ映画ではありますが一生記憶に残るであろう大切な一本になりました。面白すぎて二回観に行きました。

 

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あらすじ

1998年、サンフランシスコ。俳優になることを夢見る青年グレッグは演劇のクラスで只者ではならぬ雰囲気を身にまとい、一際目立っていた年齢不詳の生徒・トミーウィルソーの演技に圧倒され、二人は友達になります。学生の分際でありながら立派な車を持ち、豪華な家に住み、東欧なまりの強い英語を話すトミーの本性が不思議でなりませんでしたが、トミー本人は自分自身のことをグレッグに話さないばかりか、リッチな生活を他のクラスメイトには言うなと口止めしてきます。トミーの提案で二人はショービズの本場、LAに引っ越しますがここでもグレッグはトミーの所有するアパートに一緒に住むことに。グレッグは LAでタレント事務所に入り彼女ができますが、一方のトミーは自身の独特な雰囲気から事務所に入れず、オーディションにも落ちまくり、親友だったグレッグは彼女ができてしまい絶望の淵に立たされていました。グレッグの俳優生活にも翳りが見えてきたころ、トミーはある決断をします。誰も映画に出る機会を与えてくれないなら自分たちで映画を作ればいいじゃないか!と...

 

 

映画好きたちの間で''オールタイム・ベスト・クソ映画''としてカルト的人気を誇るインディー映画『The Room』(トミーウィルソー監督・2003年)の製作過程を描いた、いわば映画作りの映画です。 The Roomは日本でDVDすら手に入りにくいものの、日本語版wikipediaページはなぜか存在し、インディー映画の項とは思えないほど情報量が夥しくて書き手のこの映画に対する愛がひしひしと伝わってきます。The Roomは未見ですが、このページのおかげで十分予習ができ本作を楽しめました。ありがとうございます。わたしは撮影現場の切迫した雰囲気や大人数の撮影クルーのむさ苦しさやそこから生じるギクシャクした人間関係を群像劇として楽しめるこの手の映画が大好きで、トリュフォーの『映画に愛を込めて アメリカの夜』や、(映画ではなくポルノ業界が舞台ですが)ポール・トーマス・アンダーソン監督『ブギーナイツ』などお気に入りがあります。タイトルにもある悲惨な芸術家とは他でもなく主役・監督・キャスティングまで全て一人で行い、文字通り自分の惑星を築き上げたトミーウィルソー氏のこと。「芸術家は孤独な存在」とはよく言ったもので、チームプレイで作業をする映画作りの現場ですらこの監督は謎多き変人として疎まれる存在となり、独裁者のように振る舞っていた本人も薄々と気づいていまします。不思議ちゃんキャラとして21年間生きてきた私は身につまされる思いで観てしまいました。このシーンがとても胸に刺さり、二回観に行きたくなったのです。一度でも変人のレッテルを貼られたことがある人なら、周りから面白がられながらも実は馬鹿にされていることに気づいてしまったことがあるでしょう。被害妄想ではなく、事実としてです。また、先ほど映画の撮影過程を描いた映画が好きと書きましたが、それと同じぐらい友達の彼氏・彼女とウマが合わないどころか友達を奪われたと嫉妬してしまう話も大好きです。普通なら友達の恋人と恋に落ちて三角関係となるのがお決まりですが、そんなことって現実でどれくらい起こりうるのでしょうか?わたしは昔から友達に彼氏ができたら彼氏ができた友達に対してではなく私の大切な友達を奪った(と言ったら語弊がありますが)彼氏に嫉妬してしまうのですがそういう人間の汚さ・エゴを描く作品って実は少なくて、そこに踏み込んだこの映画は個人的に大ヒットだったわけです。

 

英語字幕なしで映画が観れるほど英語力があるか心配だった私でも心の底から楽しめたのも何よりジェームズフランコの素晴らしい怪演のおかげ。残念なことにセクハラ疑惑で告発されてしまいましたが、この作品でゴールデングローブ賞はじめ主演男優賞を受賞したのは大きく頷けます。彼の演技でゴダールの言葉の意味を身を以て知ることができました。ありがとう、フランコ